航海灯と電飾の話
●はじめに
船舶模型でギミックを考える時、まず航海灯が必須とも言えると思います。まずは船舶の航海灯についてその設置基準から説明します。

(1)航海灯の種類
①マスト灯(白色)
照射範囲は正船首から左右両舷にそれぞれ112.5度<10Point>ずつ、計225度<20Point>。

夜間に自分の存在を表示する灯火の基本です。手漕ぎの舟等では懐中電灯で代用できますが、小型の船でもマスト灯は必ず設置しなければなりません。

個数は船の全長によって違い、50m以上の動力船は2個で、船首のフォアマストと後部のメインマストにそれぞれ1個設置します。

フォアマスト灯がメインマスト灯より低い位置に設置されており、船の前後を見分ける事ができます。

このマスト灯の見え方で、相手船がどれくらいの角度で向かってくるのか目安になります。例えばほぼ上下に並んで見える場合はこちらへまっすぐ向かってきていると判断できます。

②舷灯(右舷灯は緑色、左舷灯は紅色)
照射範囲は正船首から左右にそれぞれ112.5度<10Point>ずつ。

船舶の側面を表示する灯火です。

マスト灯の並び方と舷灯の見え方で、相手船のどちらの舷が見えているか、相手船の向かってくる角度が判断できます。 正面から見ると、紅灯・緑灯に加えて2個の白色マスト灯が見えることになります。

③船尾灯(白色)
照射範囲は正船尾から左右にそれぞれ67.5度<6Point>ずつ、計135度<12Point>。

マスト灯や舷灯よりも低い位置に設置されており、相手船が船尾を向けていると、これだけが見えます。

注意しなければならないのは、手漕ぎ舟の懐中電灯も、小型船のマスト灯も白色で1個だけ見えますので、良く観察しないと間違えてしまいます。

<航海灯照射範囲>

 注:灯火の設置位置や高さ、明るさ等も規定されていますが、ここでは説明を省きます。

(2)潜水艦の航海灯について
世界共通の海の交通ルールである海上衝突予防法では、航海灯は船舶が水上にあるときに日没から日出までと、視界制限状態の時に点灯しなければならないとされています。

つまり軍艦や潜水艦であっても水上航行状態であれば通常の船舶としてこのルールに従わなければなりません。

詳しくは知りませんが、一般的に潜水艦の司令塔には舷灯と船尾灯が設置されているのが観察されます。

勿論、実際には戦闘状態の軍艦や、水中にある潜水艦が航海灯を点灯する事は必要でないばかりかあり得ないのですが、本来流線型でのっぺりした船体であり、塗装も黒や灰色が主流でいまひとつアピールするポイントが少ない潜水艦模型では、航海灯だけでも点灯すると結構見映えがします。

またR/C潜水艦では水中にあるときにメカの電源が入っている事を確認するパイロットランプの役割もでき、あるいはその船体姿勢(どっちに向いて走っているのか)を判断するのにも役立ちます。

エキスパートの作品の中には、浸水発生時には航海灯が点滅して操縦者に報せるという浸水警報装置を組み込んであるタイプもあります。

(3)光源
商船の航海灯の電球は、形式承認された専用の耐振電球(60W)を使用します。

規則上要求される視認距離は、マスト灯で6海里(約11km)以上必要ですが、60W電球でも十分届きます。

船舶模型の航海灯に使われる代表的な光源は電球とLEDです。最近は超高輝度LEDが多く出回っているのと、電球と比較して消費電力が極めて少ないので、特にLEDが使われる例が多くなっています。

またLED本体はプラスチック製ですので、配線以外の防水にあまり気を使わなくていいので便利ですし加工も楽です。

(4)搭載方法(LED航海灯の場合)
必要部品:LED、電流値制限用抵抗(カーボン抵抗 1/4W~1/16Wを各抵抗値)、配線用細ビニール線、小型信号用コネクター・ピン等。

部品の入手方法は通販を利用しています。(品揃えも豊富でコストパフォーマンスの高い秋月電子等)。 特にカーボン皮膜抵抗は100本で100円という値段ですから、良く使用する数値とその前後の数値をまとめ買いしておけば便利です。

ハンダ付けが難しいですが、超小型のチップ抵抗(0.8mmx1.2mm)もあります。(写真一番上)


①LEDの種類を選択
大きさは3mmφ、5mmφ、8mmφが代表的です。
超小型モデル用ではチップ型LEDもあり、1mm角程度のものまで入手可能ですが、ハンダ付け工作にはかなり熟練が必要です。(写真一番上)


場合によっては元光源に白のLEDを船内に設置し、光ファイバーで各部に配分するのも一案です。

LEDの色は赤色・オレンジ色・黄色・緑色・青色・白色の基本色から紫とかピンク色、さらに2色とかフルカラー表示とかもあります。

LEDには種類によって光(ビーム)の照射角度が違い、狭角(約15度)から広角(約60度)まで数段階あります。 狭角だとLEDの正面(レンズ側)に対して強い光が出ますが、照射範囲が狭いので少しずれても光の明るさが減少します。

航海灯用にはできるだけ広角タイプを選ぶべきでしょう。それでも照射範囲が不足する場合は複数のLEDを使う必要があります。

②LED点灯用電源の規格を決定
R/C受信機の空きチャンネルのソケットから電源を取る場合は通常4.8~6.0V仕様になります。

この場合、あまり沢山のLEDを点灯すると受信機の電源電圧が不安定になりますので注意が必要です。電源を電池から直接とる場合は4.8V-12V程度まであり、電源容量の心配が無いのがメリットです。

③LED用制限電流値の概略の計算 (例:電源電圧が7.2V:NiMh 6セルの場合)
電源からの電流値を制限しないでLEDを直接接続すると、過電流によって間違いなくLEDが燃えるか破裂します。

LEDに必要な電流値は通常5mA~20mA程度です。(規格表による)

この回路は直列に接続する電流制限用抵抗によってLEDに流れる電流値を制限しなくてはなりません。

抵抗値の計算の手順は次の通り。(航海灯の光源に使用するだけの目的ですから下記は概略値です)

部品購入時に入手できるLEDの規格表を参照するか、あるいはWEBで規格表を探します。
LEDの順方向電圧降下(Vf)という値を確認。LEDの種類や色によってかなり違うので注意。

LEDの明るさは電流値が大きいほど明るくなりますが、必ず定格以下にします。とりあえず流す電流値を仮決めしますが、そもそも明るすぎても模型としてはバランスが悪くなります。5mA程度でも最近の超高輝度LEDだとかなり明るいです。

例えばVfが3.1Vだったとして、LEDに電流を5mA (0.005A)流す場合。
  • 電源電圧(Vs)が7.2VとしてVfとの差を求めVrとする :Vs – Vf =Vr (7.2 – 3.1 = 4.1)
  • これにE = I Rをあてはめると、 4.1(V)= 0.005(A) x R だから R = 4.1 ÷ 0.005 = 820 (Ω)
  • よって電流制限抵抗値は820? と算出できます。

④組込み前の点灯実験
LEDの足は2本あり、通常長いほうがアノード(+)で短いほうがカソード(-)です。

慣れていれば足を短く切ってハンダ付けしても問題ありませんが、(+)(-)の接続は間違えないようにしましょう。電流制限抵抗をお忘れなく。

LEDと電流制限抵抗は直列に接続すれば、(+)側でも(-)側でも問題ありません。

LEDと計算③で求められた抵抗を直列に接続してから、電源に接続して点灯実験を行います。LEDの規格の電流値、明るさ(カンデラ)、色の種類、メーカー型番によって実際に点灯してみたら期待する明るさになっていない場合があります。

この実験で、適当な明るさになるよう抵抗値を増減します。暗かったら抵抗値を減らし、明るすぎたら抵抗値を増加します。

例えば同じ電流値を流しても右舷灯(緑色)に比べて左舷灯(紅色)が明るすぎたりする事が良くあり、このままだとバランスが悪いですので、モデルに組み込む前にそれぞれ点灯させて確認・調整します。 ちなみに水中に入れた場合には思ったより光度が減衰して暗く見えますので、あらかじめ明るめに設計しておいたほうが良いでしょう。

ここでさらに注意する点は、電流制限抵抗は個別のLEDそれぞれについて決定、接続することです。

例えば1個の抵抗に複数のLEDを接続したりすると、個別のLEDの性能のばらつきによって光量がばらばらになったり点灯しないものが出てきますので、実験で決定したそれぞれの抵抗値を記録しておけば、次回から同じ構成で回路を作製できます。

⑤モデルへの組込み
配線は電流値が多くても各10mA程度、主配線部分でも100mAも流れないのですから相当細い線でも大丈夫です。

水密区画から航海灯まで配線を水密状態に出来ればベストですが、船体構造上どうしても配線の取り外しが必要な場合があります。そのときは私は防水措置を採らずにピン・コネクターで接続するだけにしています。

清水の抵抗値は意外に大きくて(コネクターピンの距離で約300kΩ程度)、コネクターが水没していても短絡する心配は無いからです。(勿論少量の電流は流れますが大きな影響はありませんので)

でも端子や銅線が錆びる恐れがありますので、使用後は良く乾燥させて、接触不良時には新品に交換するという前提で工作します。

(5)LEDを点滅させるには
航海灯は常時点灯です。(ただし海上衝突予防法におけるエアークッション船、海上交通安全法の適用海域における危険物積載船、巨大船、緊急要務船等が航海灯に追加して表示する灯火が点滅になっています。)

先に述べた自己点滅LEDを使えば簡単に実現できますが、電源電圧が5V固定というのが殆どの規格になっています。点滅回路は内部に組み込まれており、5V以外の電源に通常のLEDのように電流制限抵抗を使って接続しても作動しない場合がありますからご注意下さい。

市販の点滅回路キットやトランジスター等で点滅回路を組んでも良いでしょう。最近ではPICマイコンを使って手軽に好みの点滅パターンを組むことも出来ます。 ちなみにスペースシャトルの噴射光はPICで0.5秒毎に5連続フラッシュにしています。


(6)LEDを点灯・消灯させるには
電源のパイロットランプを兼ねているのであれば常時点灯ですが、例えばR/Cの空きCH(例えばCH5・CH6)にR/Cスイッチ回路を装備していれば、操縦中に点灯・減灯・消灯の操作が出来て便利です。





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[2010/02/28:執筆:RN / 編集:雲山]